一人焼肉

 先日までの心理的プレッシャーからの解放と、急激に強まる仕事への社会的な風当たりの強さから、帰れるなら早く帰ることを心掛けている。それが実現できることへの感謝から足早に現場を去るとき、ふと頑張りそびれた一日が後ろ髪を引いてくる。

 なぜか最近そんなときほど無性に、焼肉が食べたくなる。得られない達成感を得たときよりも、それを夢見るときほどあの焼けた肉の煙が恋しくなる。

 かつて大きな山場を越えた時は、何かと焼肉をしていた。ただこの先あれほどの大きな山場は来ないのではないかと思うほど、焼肉からかつての高まりを感じられなくなっていた。ここ最近食べた焼肉は、どちらかというとスポーツのそれだった。品質は、部位は、美しさは、うまみは、尽きない議論するほどに焼肉からは遠くなっているような気がした。

 店主がロースターにマッチを投げ入れて点火してくれる。肉を網の上に乗せアプリを起動し日常に戻ろうとするとき、試みに携帯の電源を切ってみた。つまり、ただ焼けるのを待つということに集中してみようと思ったのだ。

 果たしてテッチャンは想像よりも焼けず、なかなかしぶといので何度もひっくり返すのだが、その度、久しぶりの集中力だと気づく。いつだって何かと話そうとしていたし、いつでも何かを聞こうとしていた。自分の意見を述べるのは客観的なものに言及するときに限定し、説明はなるべく客観的でわかりやすいものになるよう心掛けていたから、忠告のすべてを真正面から受け止めてしまっていた。多くの人の話を聞き、多くの人と仲良くやっていこうとするほどに、大事なものを、何を話そうとしているのかわからないけれどそれでも、と。

 

 一瞬でも何か一つのことに集中できる時間が全くもてていなかった、加えて集中するのは体力もいるし年々難しくなっている気がする。